1. HOME
  2. Blog
  3. 新聞のデジタル化こそ低予算で効果を出せるのではないか。メディアのウェブを作ってきた私たちが考えてみました

新聞のデジタル化こそ低予算で効果を出せるのではないか。メディアのウェブを作ってきた私たちが考えてみました

私たちはニュースメディアがウェブで作る未来に大きな可能性を感じています。全国紙、地方新聞、業界新聞など、新聞と呼ばれてきたメディアのデジタル化においては、成功例を見る限り大仕事に思えますが、私たちは予算も時間もかけ過ぎず簡単に変革ができるのではないかと考えています。

新聞の発行部数とデジタル化

新聞の発行部数は1997年にピークを迎えてから、今日に至るまで減少し続けていて、その割合は加速しています。

発行部数

2000

53,708,831

2010

49,321,840

2020

35,091,944

新聞の発行部数と世帯数の推移
https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php

部数の現象は加速しており、すでに最盛期の半分になったメディアも多く、全体としても遠くないように思えますが、情報社会と呼ばれてIT産業が活発さを増す中で、「新聞」が持つ情報力は価値が高いと考えられます。紙に価値を求めてしまうと部数の減少にフォーカスがされがちですが、新聞社が持つ取材力は情報社会の主役になる力があると考えられます。

実際に日本経済新聞社のようにデジタル化に成功している新聞社はそれを証明していて(海外のニュースメディアと比べても月額購読料金が4000円超と高額であることも起因したのかコロナ禍で2020年6~12月はやや購読者数が減少したようですが)、ウェブメディアの購読者数を増やし続けて来ています。

現在、日本では日経新聞社が現在進行形でデジタル技術とメディアの未来を牽引している姿は決して新しい姿ではなく、新聞社はこれまでも情報発信とテクノロジーを牽引する存在でした。

せっかくなので、この20年、メディアがウェブ技術を引っ張ってきたのを見てきた話をしたいと思います。

コンピューターで新聞を作った圓城寺次郎社長と日経新聞

最年長が40代前半の私たちが生まれる前の1970年代に日本経済新聞は、圓城寺次郎社長の元に日本で最初にコンピューターを用いた誌面制作に乗り出したようです。そんな日経新聞社は、現在は50人規模のITエンジニアのチームを抱えアプリやソフトウェア開発、誌面を作るためのシステムと、常時走り続けるサーバーの保守をしており、再びデジタル化に積極的に取り組んでいます。

電子版の購読者数は2021年現在の直近の発表では70万人で購読価格は4400円なので300億円はあることになります。エンジニアを50人、他にも電子版のための社員を50人いる100人のチームのようなので、雇用に1000万円当たりかかったとして社員だけで5億円は投じていることになります。売り上げの規模によらず、50人のエンジニアがいるソフトウェア企業と考えると、それなりの売り上げがないと真似ができない体制です。

世界中が心躍らせたNew York Timesのユーザーインターフェース

Nikkeiについて紹介しましたが、21世紀のデジタルメディアの勃興の中で私たちIT業界のアイドル的存在になりテクノロジーの一部を牽引したのはNew York Timesでした。

少しエンジニアっぽいマニアックな話になりますが、デジタルメディアに力を入れ始めたNew York Times社はユーザーインターフェースに関するスターエンジニアチームを擁していました。彼らはスタンフォード大学でUIの実践的なプログラムを開発していました。

まず一人はMike Bostockさん。情報の可視化を目的としたd3.jsというプログラミングライブラリを公開し、New York Timesはそのライブラリを活用して、ありとあらゆる情報を記事の中でわかりやすくビジュアライズしました。紙面では難しかったユーザー操作によるインタラクションも使い、情報の中に新しい発見を作り出し、読者たちを魅了しました。そして、読者だけではなく私たちのような世界中のフロントエンドエンジニアたちの憧れとなりました。彼がNYTimesに在籍していた頃に関わった記事は以下のリンクにまとまっています。
https://www.nytimes.com/by/mike-bostock

もう一人はJeremy Ashkenasさん。エンジニアにしかわかりませんが、世界中のエンジニアが使ったことがあるJavaScriptのライブラリの多くは彼が作ったものか、それに端を欲する改良品となるライブラリです。それはunderscore.js, coffeescript, backbone.jsなどです。便利な関数を _ (アンダースコア) にまとめた、underscore.jsは主にlodash.jsに置き換わり使われ続けています。癖のあるJavaScriptを生成(Transpile)するCoffeeScriptは同じような試みをたくさん誘発し、現在ではTypeScriptが最も用いられている現状に大きく貢献しました。そして、ブラウザ上のUIをもっとオブジェクト指向で記述しようとするBackbone.jsは、現在のReact, Angular, Vueが代表するデータバインディングのライブラリを生み出す大きなきっかけとなったライブラリでした。私たちは字幕翻訳家向けのアプリケーションを試作した時にBackbone.jsを使いました。
そんな彼がNYTimes在籍時に関わった記事は以下のリンクにまとまっています。
https://www.nytimes.com/by/jeremy-ashkenas

この二人に加えて他にもたくさんのエンジニアがいて、コンテンツを華々しく彩るたくさんのチャートに世界中が心躍らせました。

このような結果として、発行部数が同じように落ちていたNYTimesは現在、購読料金が1週間1ドルにも満たない価格でワンコインメディアとしてのアイデンティティーも保ちつつ、世界中のデジタルの購読者数は750万人を超えたようです。上に挙げた二人のエンジニアが在籍していたNYTGraphicチームは次のステージに進んでいるようです。
https://twitter.com/nytgraphics

NYTimesのライブラリD3.jsについてや、私たちがそれを用いて提供しているチャート機能については、また別の記事で紹介したいと思います。

NY TimesやNikkeiと同じことをする必要があるのか

デジタル化に苦心しているメディアがNY TimesやNikkeiと同じ体制を辿る必要があるのかと言われると、それは必要ないと言えます。デジタルを牽引するという態度が結果を生み出してきたことは確かですが、わかりやすいユーザーインターフェース、データの可視化、生産効率の良い管理画面、SEOに配慮したテンプレート、柔軟な購読システムなどは私たちなら年間で100万円からすでにソリューション化したものが提供できます。50人のエンジニアリングチームを雇うよりも、各新聞社の取材力とそのニッチなコンテンツが必要な顧客がいる限り、ウェブはツールでしかないため、費用をかけずに得ることを選ぶべきだと考えます。

CMS Okraでできること

Okraはデジタルメディアの運営を基本としていて、記事のブロックのデザインの趣向を凝らしながらも、生産効率を高め、SEO対策もしっかりとしています。今年にはサブスクリプションメディアの全てのページをノーコードで編集できるように開発を進めています。